Otomo Yoshihide Solo Works 1 Guitar and Turntable 発売記念LIVEレポ

 2023年9月10日(土)、渋谷の公園通りクラシックスで行われた大友良英さんのソロアルバムOtomo Yoshihide Solo Works 1 Guitar and Turntable | Otomo Yoshihide / 大友良英のレコ発ライブの昼の部に行ってきたのでそのレポ。

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 まずはギターの演奏から。おなじみのU字型工具を右手に持ち、弦を引っ掻く。開始早々爆音のノイズがライブハウスに轟く。

 ギュピーーーーン!!!!ガガガゴゴゴ!!キュキュキュピーーーーン!!!!!ギャギャギャギャギャギャ!!!!!!!

 いつも思うが、どういう原理でこんな音が出ているのか不思議でならない。エフェクターをかませた上でフィードバックを起こしているとしても、それだけでこの爆発的な音にはならないのではないか。とすると、あの大友さんの手にしっかりと馴染んだU字工具を用いることでしか出せない音があるのだろう(激しい演奏のため、時折落としていたが)。なお、このとき使用しているのは写真左側のギター。ノイズを演奏するときに一番よく使用されているものだと思う。そのまま20分弱ほど演奏(体感)。

 続いてターンテーブルソロ。まずは写真中央にある白と水色の可愛らしい小さなプレーヤーを手に持って演奏。ゴゴゴゴゴゴ!!!!! というノイズが鳴り響く。見た目と音のギャップがたまらない。持ったまま揺すったり、後方の茶色っぽいフェンダーのアンプ(Blues Deluxe? 大友さんはだいたいこのアンプを使っている)に近づけたりして、音色を変化させる。こちらは短めの演奏で一区切り。個人的にはこの小さなプレーヤーでの演奏が視覚的にも見応えがあり、好みだった。

 今度は大きな2台のターンテーブルで演奏。レコードを乗せたり外したり、クレジットカードみたいなもの擦りつけたりしてスクラッチノイズを出す。ものすごい爆音。面白いのは、ギターでもターンテーブルでも、大友さんの音だとわかる音色のノイズが出るということ。音色を変化させたり音を止めたりするタイミングも関係していると思う。こうした演奏をもう何十年もやっているのだ。熟練の技で爆音をコントロールしたりコントロールしなかったりするその塩梅に、演奏者の色が出る。紛れもなく、これはノイズミュージックである。ここで1セット終了。

 小休憩を挟んで2セット目はターンテーブルから。ターンテーブルを回した状態で、片方に大きな金属のボウルを乗せ、右ポケットから何か金具のようなものを取り出しボウルに放り込む。ライブ中の大友さんの右ポケットはいつも複数の金具でジャラジャラしている。キンキンキンキンゴゴゴガガガガガガガガガ!!!!!! 不安定に回るボウルの出すリズムが面白い。

 続けてギターの演奏。今度は写真右側のギターが手に取られる。先ほどのギターはギャギャギャギャギャギャ!!! という金属的な音が出るイメージだが、こちらはじゃっかんふくよかで、甘めの音のような気がする。U字工具以外にピックでもジャギジャギやる。ノイズにも色々ある。音色豊かだ。

 それからまたターンテーブルの演奏。途中、ターンテーブルを拳で打って音を変化させる奏法が見られる。拳を打つことで音が揺れる。実に原始的な奏法だ。

 音源だけを聴くと見過ごしてしまいそうになるが、演奏というのは概して身体的・物理的なものだ。体の動き、物の動きで音が鳴る、変化する。ギターとターンテーブルから出るノイズのみ、それ以外なし、というシンプルな構成だからこそ、音が鳴ること自体へのプリミティヴな驚きがある。その感覚はどんな音楽を聴く場合にも持ち得るものなのだが、ひとたびハーモニーやリズムに心を奪われてしまうと、水面下に沈んでしまうように思う。爆音で轟くノイズは、そうして沈み込んだ音そのものへの感覚を一気に浮上させるのだ。それは例えばポップスだけを聴いていては、気づきにくい感覚かもしれない。

 だからこそ、ポップスをよく聴くためには——なんてこんな言い方はノイズに対して誠実ではないかもしれないが——ノイズが必要なのだ。逆に言えば、ポップスをよく聴くことで、ノイズの中にあるハーモニーやリズムに気づくこともできるだろう。ノイズをよく聴くためにも、ポップスをよく聴くことは欠かせない。ポップスとノイズは互いに相補的な関係にあるのだ。それを体現しているのが大友良英というミュージシャンなのだと思う。

 終演後に大友さんにあいさつしようとしたら壁に頭をぶつけた。いてててて。

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 来場者特典&CD購入特典としてポチ袋とバッジを貰った。うれしい〜。

 この日の演奏の録音は、大友さんのレーベルLittle Stone Recordsから出るソロワークスの第2弾になるという。ちなみに第3弾はクリスチャン・マークレーのカバーを予定しているとのこと。どちらも楽しみに待ちたい。