大友良英スペシャルビッグバンド@新宿PIT INN 2023昼の部ライブレポ

 フリージャズ〜タンゴ〜スカ〜ロック〜映画音楽〜歌謡曲と次々にジャンルのボーダーを飛び越える。でもそれは特別なことではなく、というのもひとりの演奏者が影響を受ける音楽は当然さまざまあり、しかも人が複数が集まればそのぶん多くの音楽の文脈が交差するわけで、だからこそ細田成嗣さんによる最新のインタビュー(https://tokion.jp/2023/12/27/interview-yoshihide-otomo-part2/)でも言っていたように、大友さんは極めて「パーソナルな音楽」をやっているのだと思う(このインタビューはギターとターンテーブルの演奏の話ですが)。

 ライブは2セット+アンコール、2時間半を超える長丁場。これで4days8公演を毎年やっているのだからすごすぎる。

 とりわけおもしろかったのは新曲「スモールストーンキュー」(表記不明)。演奏者全員が指揮者になるSmall Stone Ensembleの方法論でスペシャルビッグ用に書いた曲だと思われる。メンバーが自由自在に交代に、時には同時に、ハンドサイン(キュー)を出しながら大きなグループと小さなグループができては崩れ崩れてはできて……と、リズムの重心がどんどん移ったり同時に複数あったりするのがとてもおもしろかった。

 で、これは大友さんが吉田屋に着想を得てONJOを始めたときからやろうとしていたことなんじゃないか、と思う(http://www.japanimprov.com/yotomo/yotomoj/essays/yoshidaya.html)。この文章の最後にはイラク戦争時の鶴見俊輔の文章が引用されているのだけれど、さて、Small Stoneと聞いてわたしが思い起こすのは——この言葉は小泉今日子さんのツイートに由来するそうですが——イスラエル軍に石を投げているサイードの写真。小さな石を投げる行為と心地の良い宴会のような音楽という取りあわせ。Small Stoneは大友さん流に吉田屋と鶴見俊輔の思想を実践する方法論なのだと思うけれど、それは二民族による共存を訴え、石を投げたサイードの思想にも共鳴しているように思う(じっさい、大友さんは昔書いた文章でサイードの『文化と帝国主義』を取り上げていた覚えがある)。

 ゲストでタップダンサーのリュウガさんとエリック・ドルフィー。いま18歳で、大友さんとは小学生のころからの付き合いとのこと。それにしてもエリック・ドルフィーでタップダンス、世界初なのでは。後半はハンドサインを出しあってサンバ調になり(ドルフィーはどっかいった)、かなり白熱した演奏になった。

 アンコールではSachiko Mさん、上原なな江さん、相川瞳さんの3人による、まさかのダンスと歌で「暦の上ではディセンバー」! めっちゃ楽しかった。来年もまた観たいです。

 今年のブログの更新もこれで終わりかな。あまり読む人はいないと思いますが、書いておけばいつか誰かが読むかもしれないと思って書き始めました。来年はもう少し更新頻度を上げたいです。今年もありがとうございました。