フェスティバルFUKUSHIMA! 2023ルポ

 2023年8月12日土曜日、東京は晴れ。西日本には台風7号が接近している。東京駅から13時ちょうど発のやまびこ139号で福島駅へ向かう。新幹線に乗ってすぐ、駅弁屋で買った押し寿司を開ける。酢の匂い。隣の席の大学生っぽいふたり組が嫌な顔をしないか心配だ。胃に入れてしまえば匂いはしないだろうと、貪るように食べる。5分で完食。小さすぎた。まだ空腹だがしかたない。スマホを開いてSNSやブログを書いて空腹と移動時間をやりすごす。

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 14時30分、福島駅に到着。天気が心配だったが無事くもり。東京より全然涼しい。福島を訪れるのは約2年ぶりだ。前に来たのは大学院生だったとき。修士論文に「フェスティバルFUKUSHIMA! 2021」のことを書こうと思って行ったのだった。修士論文に載せた大友良英さんへのインタビューはこちらから。

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 なので、今回は修論の続編(?)。「あとがきのあとがき」のような気分で、書いています。

 福島駅を出ると、さっそく「ええじゃないか音頭」が聴こえてきた。まだスタート時間ではないので、きっとリハの音だろう。「おっ、やってるやってる!」という、まさに祭りに囃し立てられた気分になってくる。弾む足取りで駅前通りへ。やぐらとステージ、そして封鎖された道路一面に敷き詰められた色とりどりの風呂敷が見えてくる。このフェスティバルの代名詞ともいえる「大風呂敷」だ。複数の布をつなぎ合わせて作られたその足元は、もともとは放射能対策として講じられたものだった。2011年8月15日、四季の里およびあづま球場で行われた第1回フェスティバルFUKUSHIMA!で、原発事故がもたらした放射能汚染から来客と出演者を守るために、芝生の上に敷き詰められたのがこの布だった。

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 さて、前回は論文を書くためのフィールドワークということで研究モードで参加したのだが、社会人となった今、紙とペンからは自由の身だ。そこで今日は演奏者として参加してしまおうと思い、ウクレレを持ってやってきた。とはいえ今日は福島に通える人を中心に大友さんが呼びかけて集めたコレクティブFUKUSHIMA!の初演でもある。盆踊りの演奏もそのメンバーでやる、ということになっていた。一応SNS上では飛び入り参加OKの旨は書いてあったものの、そのへんの棲み分けは一体……なんて心配は無用。大友さんに会った途端に、「適当に入ってよ!」と言っていただいたので、まあ音も小さい楽器だ(本当はでかい音の楽器に憧れているが持っていない)、演奏者たちの近くで楽器を取り出す。

 さあはじまった。まずは集団即興演奏から。大友さんの指揮(ハンドサイン)で演奏者が音を出し、音楽ができあがっていく。f:id:isatosui:20230813012341p:image

 一区切りついたところで、来場者から指揮者が募られる。まずは子ども。ハンドサインよりも自由な振る舞いに、演奏者も戸惑いながら音を出す。ボテ、ボテボテ、ドコ、ビーン、バン!ドン、ジャカジャカ!

 続いて大人の指揮者。大友さんが英語で声をかけて出てきたのはデヴィッド・ノヴァックさん。彼は音楽学者で、わたしも院生時代に愛読した『ジャパノイズ——サーキュレーション終端の音楽』(若尾裕訳、水声社、2019年)の著者だ。音楽の批評をすることが同時に社会批評にもなりうるということをわたしはこの本から学びました。必読です。そのノヴァックさんの指揮はというと、表情と全身(特に表情)で演奏者に指示を与えていて、しかもなぜかサンバ調のリズムになっており、とても面白かった。

 ほかにも4、5人ほどが指揮をしたと思う。最後にもう一度大友さんの指揮。やっぱり場数をものすごく踏んでいるので、大友さんの指揮は上手いんですよね。誰に(どの楽器に)どう指示を与えたらいいかをその場で考えながら、リズムやダイナミクスを上手く作って、最後はめちゃくちゃに(本当にめちゃくちゃな感じになる)盛り上げて終わる。

 とはいえ、大友さんの指揮が絶対的に「良い」というわけではなく、それはこの道のプロなので上手いけれど、指揮する人によってそれぞれ全然別の音楽がつくられるのがこの方法の面白いところだと思う。音楽を巧拙や良し悪しだけで捉えるなんて、まったく偏狭な価値観なんだろう、という気がしてくる。

 即興が終わって、演奏者たちはぞろぞろと駅から反対方向に200メートルほど歩いた先の「まちなか広場」へ移動。ここではビールフェスが開催されていて、そのお客さんたちを前に少しだけ演奏する。f:id:isatosui:20230813012650j:image

 ここからさっきまでいたやぐらのあるステージまでパレードだ。あまちゃん音頭のAメロをエンドレスでループしながら、ビールフェスを抜け、信号を渡り、ふたたびステージへ。

 ここで一旦コレクティブは終わり、モミwithまさひこの演奏に。フルアコギターの甘い音色と爽やかな心地の良いボーカル、そして大友さんのエレキギターとコレクティブのメンバーからパーカッションやホーンも参加。打ち水をした後に感じる涼しい風のような演奏。まさひこさんのギター、良い音してるなあ。ハーモニクスが水が撥ねる音みたいに綺麗だった。コレクティブのメンバーも道ゆく人も、風呂敷に座ってゆるやかに聴き入る。以下セットリスト。「雨にぬれても」、「サマーサンバ」、「クロース・トゥ・ユー」、「オン・ザ・サニーサイド・オブ・ザ・ストリート」。f:id:isatosui:20230813012557j:image

 ここで小休憩。最後までいるつもりなので今のうちに腹ごしらえ。駅前通りを一本裏に入ったところにおいしそうなビストロを見つけた。パリの大衆食堂がコンセプトっぽいお店。これがめちゃめちゃうま〜い。開店直後でガラガラだったけどどうやらコースで予約のお客さんがかなりいる気配。そして勧められるがままにワインを2杯。ああ、パリに行きたい(韻踏んでます)。ちょっと贅沢しすぎたけど旅行(扱い)なのでよしとします。写真はイワシとオリーブオイルのパスタ。f:id:isatosui:20230813011451j:image

 さて、戻るとすでに盆踊りが始まっていた。再びウクレレを取り出して「ええじゃないか音頭」の途中から参加。すっかり酔っ払ってるので「ええじゃないか〜!」と上機嫌で歌いながらやぐらのまわりを回って演奏。続けてあまちゃん音頭、地元に帰ろう音頭、池袋西口音頭、新生相馬盆歌、フジオ音頭も(順不同。酔っ払ってるので覚えてません)。人がどんどん増えて演奏もどんどんヒートアップ。

 途中、フジオ音頭の前だったかな、「遠藤ミチロウ坂本龍一が絶対その辺のビルから見てるよ」、と大友さん。メンバー紹介に続いて2人の名前を呼んで、みんなで天に向かって拍手する。フジオ音頭は「レレレのレ〜!」のコールアンドレスポンスで始まり、途中の「ストップ レディオアクティビティ」もかけ声のひとつ。大友さんがインタビューで盆踊りはゆるくて良いって言っていたのが、ようやくわかった。強い政治批判の言葉をたとえ使ったとしても、それが暴力的な「力」になっていかないってことなんだと思う。むしろその逆で、音頭は脱力。あがった拳も開いちゃう。脱力しながら盛り上がるなんて、まったく不思議な音楽だ。それに坂本さんとミチロウさんの思想というか魂(普段は魂なんて言葉絶対使わないけど)が、このゆるい音頭のこだまの中にあるような気がする。ふたりはほとんど接点がなかったと思うけれど、見ていた未来は近かったと思う。ああ、どこからかミチロウさんの歌と坂本さんのピアノが聴こえてきたようだ。

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 音も人もごちゃまぜになりながら、やぐらのまわりをぐるぐると回り、手を取り合って笑い合う。音頭ってこんなに楽しいんだなあ。実は2021年のフェスティバルFUKUSHIMA!は久々の開催で雨だったこともあり、こんな熱気はなかったのだ。これを見ていたら論文も少し変わっていたかも……なんて思うけど、これが本当の後の祭り(?)。こんなに音楽を楽しいと思えたのは久しぶりだった。

 最後はええじゃないか音頭の間奏部分を何回か回して締めくくり。来年はもっと音のでかい楽器で参加したい。